衆院選(27日投開票)序盤戦で自公与党の苦戦が伝えられるなか、公明党が低所得者世帯向けに「10万円の給付金支給」を打ち出し、自民党の森山裕幹事長が同調した。
しかし、この動きが報じられるや、SNSでは現役世代が猛反発した。
「選挙対策の安易なバラマキ」への怒りもあるが、支給対象の多くは年金受給の高齢者。フローとしての所得は確かに少ないが、ストックである個人金融資産2000兆円超のおよそ6割は60代以上が保有する。
X(旧ツイッター)では、「われわれ現役世代が汗水流して稼いだ金を勝手に高齢者に対する選挙の票買収のために使うの辞めてもらえませんかね?」などの与党批判が噴出した。
「高齢者世代vs現役世代」は近年急速に深まる政治的断層の特徴だ。特に、岸田文雄政権以後に目立つ。
実際、各種の世論調査ですでに伝えられるように、安倍晋三政権時代は経済が堅調で「株高」と「完全雇用」を達成し、若者世代の自民党支持は特に高かった。保守層だけでなく若者層も岩盤支持層だった。
しかし、岸田政権以降、自民党からの「若者離れ」が進む。
読売新聞による世論調査で、岸田内閣の支持率が最も高かったのが2022年7月。この時、60代以上の支持率は74%と、21年10月の内閣発足時と比べて21ポイントも増加した。一方、18~39歳では54%と8ポイント減だった。
同紙が先週15、16日に実施した衆院選の世論調査では、18~39歳の石破内閣の支持率は25%まで下がっている。
今秋の自民党総裁選の党員投票で、石破茂首相が1位だった県の多くは高齢化が進んでおり、自民党からの「若者離れ」が加速している可能性が高い。
与党苦戦のもう1つの要因は「物価高による生活苦」だ。
どの世代も直面しているが、現役世代は実質賃金が久々に上がっても、社会保険料の値上げなどで帳消しに。年金に象徴される「世代間格差への不満」の受け皿として、日本維新の会と国民民主党は、減税と社会保障負担減による「手取り」増を打ち出している。維新は、医療費窓口負担の全世代原則3割(現在は高齢者の多くが1割)を真っ先に打ち出し、政界の「高齢者タブー」を打破した。
しかし、万博問題や兵庫県政の混乱のあおりで党勢が失速している。維新が気の毒にも〝先行者利益〟を逃した一方、衆院選では国民民主党が玉木雄一郎代表の発信力を武器に「若者の支持」を急速に広げ、スタートダッシュに成功した。
新田哲史
にった・てつじ 報道アナリスト。株式会社ソーシャルラボ代表取締役。1975年、横浜市生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞記者、ニュースサイト「SAKISIRU」編集長などを経て、現在は企業や政治関係者の情報戦対応を助言している。著書に『蓮舫vs小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。
原文出處 產經新聞