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コロナ後遺症に初の傷病補償年金支給 「治療継続の支えに」

新型コロナウイルス感染後に労災認定を受け、後遺症が2年以上続く東京都内の女性(55)に対し「傷病補償年金」の支給が認められた。コロナの労災認定は約20万件に上るが、後遺症による年金支給は初めてとみられる。社会が平時の姿を取り戻す一方、原因不明の症状に苦しむ人は多く、救済につながるとして期待の声もあがる。(三宅陽子)

「すごく制限のある生活になってしまった…」

9月中旬、東京都内で記者会見した女性はハンカチを握りしめ、苦しい胸の内を明かした。

令和3年1月、勤務先の有料老人ホームで集団感染が起き、事務職だった女性も感染した。CT検査で両肺が真っ白になるほどの肺炎に陥り、一時入院。退院後も息苦しさは残り、自宅での酸素吸入が必要となった。

同年5月に労災請求し、同年7月に認定を受けたものの、一日に2リットルの酸素が必要で「ずっとチューブにつながれた状態」(女性)。感染前は運動不足解消のため2駅分歩くこともあったが、ほとんど外出はしなくなり、歩行速度も以前の半分に満たないほどに落ちた。

倦怠感(けんたいかん)や頭痛も残り、家の中でも体と相談しながら動く日々。少し活動量が増えると、翌日から2~3日は寝込んでしまう。こんな不安定な状態での職場復帰は、到底考えられなかった。

労働基準監督署から傷病補償年金の支給決定通知を受けたのは今年5月。「ほっとした」という女性は、休職扱いとなっていた勤務先を退職し、現在は療養に専念できている。

厚生労働省の研究班は9月、3自治体の住民らを対象に行った調査で、成人のコロナ感染者11・7~23・4%に後遺症があったとする結果を公表。重症化しにくいとされるオミクロン株の罹患(りかん)者にも倦怠感、咳(せき)、集中力の低下などの症状が、感染から2カ月以上続く人が多くいる実態が明らかとなった。

コロナ感染による労災申請は今年8月31日時点で約21万件。このうち、認定を受けたのは約20万件に上っている。

傷病補償年金の支給は労災認定を受けていることが前提となり、療養開始後1年半を経過しても傷病が治らず、重い症状が続いている人を対象として、労基署長が認定可否を判断する。

NPO法人「東京労働安全衛生センター」(東京都江東区)によると、これまで傷病補償年金の支給対象となった多くは、重度のじん肺や脊髄損傷などの患者だった。女性は呼吸器障害で傷病等級3級に該当すると判断されたといい、コロナ後遺症では初のケースとみられるという。

同センターの飯田勝泰事務局長は「今回のケースは後遺症に苦しんでいる方にも年金を適用できるという事例を示したものであり、患者にとっては治療を続けていく上で大きな支えになる」と指摘。「国は労災申請の勧奨に取り組むとともに、症状が相当程度重い方については年金移行に該当するかを審査し、移行できるものは移行してもらいたい」と訴えた。

労働者災害補償保険(労災保険) 業務が原因でけがや病気となり、仕事を休まざるを得なくなった際の生活費などを補償する。労働基準監督署に申請し、認定されれば、休業4日目から給与の8割程度の休業補償を給付。療養補償で治療費も全額補償される。傷病補償年金に移行した場合、休業補償給付は終わるが、療養補償給付は継続される。移行すると、生活にかかる費用は年金として支給され、金額は国が定める傷病等級(1~3級)などによって異なる。

原文出處 產經新聞